早慶全勝を果たした、ある生徒の話。
初めて彼を見たのは小学生の時だ。とても明るく、賑やかな子だった。
当時からとても賢く、何より、頭の柔らかい子だった。
中学に上がると成績に対してプライドが出てきたのか、
1年生の時から中学3年生になるまで、一番前の席は譲らないぞ!という気持ちがにじみ出ていた。
常に上位を維持し、貫録を見せてくれていた。
中2のある時、保護者の方を面談をする機会であるが、保護者の方に尋ねてみた。
「志望校はどのあたりを考えられているでしょうか?」
すると、
「なんとかMARCHに入れれば、と思っています。」
と話してくれた。
親目線からすると、たしかに明るくはしゃいでいる事の多い彼は心配そうに映っていたかもしれない。
「彼の成績なら、早慶は十分狙えます。頑張ってほしいですね!」
面談の度にそう伝えていたと思う。
(親は非常に謙虚に、うちの子はあんな子なので…と言っていた。親目線は本当に心配だったろう。しかし、彼には芯があった。)
彼は、勉強に手を抜くということはなかった。
常に自分の成績を気にしていて、小テストであっても1位を逃すと悔しそうにしていたものだ。
自分が理解できていたとしても、先生の話をよく聞く子であった。
ある授業のとき、
彼のノートを見ると、ほぼ完ぺきな式・答えが書いてあった。
そこで、
「解説を聞いても、もしかしたら君が分かっている事ばかりかもしれない。他の問題も解いていていいよ。」と声をかけてみた。
彼は、
「いえ、問題は解けましたが、先生の話の中には知らない事とか考えなかった解き方が出たりもするので、全部聞いておきたいんです。」
こちらが、震えた。たしかに余談・別解を紹介することはよくある。彼の、隅から隅まで吸収しようとする姿勢・向上心が強烈に印象に残っている。
教室では友達ととても楽しそうに話し、わいわいしている一方、授業となるとがらりと変わって集中力が一気に増す。
常に1番を取りたがっていた彼は中学3年の10月駿台模試で、ついに数学1位を取った。
すぐに彼に声をかけた。
「1位は本当に凄いよ。流石っ!」
彼は嬉しそうな顔をした後に、
「いえ、95点だったので…。100点を取れば、単独で1位だったのでそこが悔しいです。」
それを聞いた私は、まんべんの笑みで、
「じゃあ次は100点で1位を取ってくれな!!」
と言ったと思う。彼は、
「はい!今度こそは!!」と、さらに明るい笑顔を見せてくれたことを今でも覚えている。
その後100点を取れることはなかったけれど、数学だけでなく他教科でも毎回のように素晴らしい点数を叩き出してくれた。
「次こそは、次こそは。」一度失敗しても、すぐ次に向けて切り替える。向上心にあふれていた。
そんな彼でも、最初から最後まで順風満帆、というわけではなかった。
国語が、とても苦手だったのだ。
中1でも中2でも中3でも、課題となっていたのは国語だ。
しかし、英語・数学という武器を完成させられた彼は、中3の後半で、国語の苦手な部分に十分な時間を充てられた。
国語の心配は最後まであったけれど、やれることを必死にやっていた彼の国語は、次第に上向き、安定していく。
中3の2月になり、
彼を入試試験会場に送り出すときには、こちらの心配は全くなかった。
いつも通りやれば、確実にいける。
こう、確信めいたものを抱かせてくれた彼は、
早慶全勝さらに明大明治の特待合格というおまけをつけて、華々しい結果を残してくれたのだった。
保護者の方には、
「うちの子がこんなになるなんて、初めは思ってもみませんでした。」
と話してくれたのだが、
もしかしたら、彼にとって過度なプレッシャーがなかった。というのが、良かったのかもしれない。
(もちろん、勉強についていう事は多かれ少なかれあったと思うが。)
気持ちが勉強に向いているときは、そっと距離を開け、その子の気持ちのままに勉強させてあげる。
何か悩んでいそうな事があれば、そっと聞いてあげる。話したそうにしていれば聞いてあげる。
そんな距離感。
気持ちが乗っているな、と感じたら、塾と本人に勉強を任せてみると、良い結果が返ってくるかもしれません。